「中古住宅を購入すると、後から不具合が見つかって、結果的にリフォームでお金がかかる」こんなことを聞いたことはないでしょうか。

この言葉の後には「だから新築が良い」と続くのですが、本当にそうでしょうか。

後から見つかる不具合って何でしょうか?その不具合を直すのにいくらかかるのでしょうか?何百万も修繕にお金がかかるなら買うのを見合わせるかもしれません。でも数千円で済む話なら、気にするだけ無駄のような気がします。

 

この中古住宅にまつわる修繕・メンテナンス費用の不透明感が、中古住宅購入におけるリスクと言われるものです。

この問題が起きるのは、不具合が発覚するのが取引が終わった後だからです。

「知っていたら買わなかったのに…」

この中古住宅を購入を判断する上で必要な材料を得る方法がインスペクションです。

インスペクションは中古住宅購入時には欠かせない制度になります。

インスペクションの種類

不動産業界でインスペクションとは、建物調査のことを指します。住宅の調査には様々な種類があるのですが、平成30年4月に宅建業法が改正され、不動産流通時に最低限実施した方が良いインスペクションのことを「建物状況調査」という名称で定義されました。

 

購入判断材料として必要と思われる建物調査は下記に挙げられます。建物の現況やこれまでのメンテナンス内容、今後実施するリフォーム内容などを考慮して、実際にどの調査を行うかを決定します。

〇劣化に関する調査

先に記載した「建物状況調査」や既存住宅売買瑕疵保険の現況検査は建物の劣化に関する調査が主となります。

雨漏れなどの痕跡がないか、防水対策のコーキングなどがひび割れていないか、建物が傾いていないかなどを調査します。

 

劣化に関する調査は最低限必要な調査と言えます。劣化調査を実施しないもしくは調査で悪いと指摘した箇所を直さないため、冒頭に述べた「買った後に不具合が見つかる」事態が発生するのです。

〇耐震診断

建物の耐震性を判断するための調査です。建物の構造によって実施する方法が異なります。

木造住宅の耐震診断は割と一般的なのですが、マンションなどの耐震診断はそんなに簡単に実施できるものではありません。(マンションの耐震性は共用部の問題なので、区分所有者の一存で実施するのも難しいです)

耐震診断には劣化に関する調査項目も含まれるので、前述の劣化調査と合わせて実施するのが合理的です。

〇フラット35適合検査

住宅ローンでフラット35を利用したい場合は、フラット35適合検査が必要になります。調査項目や基準はフラット35独自のものがあるのですが、多くは前述の劣化調査と重複するものも多いので、単独で依頼するのではなく、劣化調査と合わせて依頼するのが合理的です。

〇その他調査

シロアリ検査や住宅設備の検査など、中古住宅購入時に利用した方が良い調査は他にもありますが、それぞれ判断基準が異なりますので、取得したい住宅や、実施予定のリフォームを考慮して検討します。

築年数・構造別 実施するべきインスペクション

中古住宅購入時にどのインスペクションを実施するのかは、構造と築年数で区分することができます。

1)【木造住宅】築20年以内

築20年以内の木造住宅は、住宅ローン減税の築後年数要件に抵触しないため、今後の維持・メンテナンスがテーマとなります。

具体的には既存住宅売買瑕疵保険の現況検査を実施し、状況に合わせて既存住宅売買瑕疵保険の加入を検討します。

2)【木造住宅】築20年超

築20年超の木造住宅は、住宅ローン減税の築後年数要件に抵触するため、判断が異なります。耐震診断と既存住宅売買瑕疵保険の現況検査を合わせて実施し、既存住宅売買瑕疵保険に加入できるかどうか、耐震基準適合証明書が発行できるかどうかなどを把握し、所有権移転までに実施しなければならない手続きと必要な改修費用を把握する必要があります。

3)【2x4工法】築20年超

同じ木造住宅でも2×4工法の住宅は、耐震性に優れていると言われています。耐震改修工事が必要ない物件の場合は、所有権移転までに証明書を取得する必要があるため、2×4工法の物件の場合は、なるべく早めに耐震診断を実施することをお勧めします。

(耐震診断が所有権移転後になった場合、耐震性が証明されても、住宅ローン減税の対象にならない可能性があります)

4)【木造以外の戸建て】

鉄骨、軽量鉄骨、RC造など木造以外の戸建てを購入する場合は注意が必要です。一般的な耐震診断法で評価できないからです。場合によっては、その物件を建築したビルダーに評価を依頼しなければならない場合があります。

5)【マンション】築25年以内

マンションの性能は共用部の問題なので、マンションのインスペクションは戸建てほど重要ではありません。(調査を行うより、長期修繕計画や大規模修繕履歴などの確認が重要になります)

6)【マンション】築25年超(新耐震)

築25年超のマンションは、住宅ローン減税の築後年数要件に抵触するため、住宅ローン減税を利用するために、既存住宅売買瑕疵保険の加入を目指します。

所有権移転までに瑕疵保険の付保証明書が必要になるため、なるべく早めに既存住宅売買瑕疵保険の現況検査を実施するか、瑕疵保険手続きにかかるスケジュールを考慮して、所有権移転日(引き渡し日)を決める必要があります。

7)【マンション】旧耐震

旧耐震のマンションで住宅ローン減税を利用するには、耐震基準適合証明書が必要となりますが、旧耐震のマンションで耐震基準適合証明書が取得できるのは非常に稀なケースだと思います。(瑕疵保険の加入にも耐震基準適合証明書が必要です)

安心・安全な中古取引は適切なタイミングでインスペクションが不可欠

失敗しない住宅購入のためには、適切なタイミングでインスペクションを実施する必要があります。

不動産業界は長らく新築偏重だったので、どうしても不動産売買契約が優先されがちです。ただ、不動産売買契約とインスペクションの結果は直接には関係しないため、不動産売買契約後にインスペクションを実施して、思った以上の改修費用がかかると判明したとしても、締結した不動産売買契約を白紙撤回する理由にはなりません

とは言え、物件は一つしかないので、インスペクションの結果を待つ間に他の人に売れてしまったら、実施したインスペクション費用は無駄になります

 

この二つの問題は避けて通れません。どちらかを選択する必要があります。

築年数や内見での状況などを踏まえて、改修費用のリスクが少ない場合は契約優先、住宅ローン減税のために耐震診断が必要な場合はインスペクション優先など、柔軟に判断する必要があります。

この判断は住宅性能に詳しくない人には難しいです。だから、中古住宅の取引は、建物性能に詳しい人に手続きをお願いする必要があるのです。